2010年3月18日木曜日

2-4) 新しいリンの吸着剤 ホスレノール とは。

2-4) 新しいリン吸着剤 「ホスレノール 250mg/500mg 」
【はじめに】
リンはほとんど全ての食品に含まれています。特にタンパク質1gあたりには、約15mg含まれていると言われています。生物はリン酸をエネルギー源とし て使用するために、リンは生命の活動に必須なものです。
一方、リンは主として腎臓から排泄されます。腎不全で透析を受けておられる方では、この尿からの排泄経路がありません。また人工透析では最近の高性能の 透析膜を使用しても、1回の透析でおよそ1000mgのリンが除去できるにすぎません。一日あたりにすると、約500mgです。
したがって、透析患者さんは透析では除去しきれないリンを排泄するために、リンの吸着薬の服用が必要でした。代表的な薬が、「炭酸カルシウム」です。し かし、炭酸カルシウムを過剰に服用すると、血清カルシウム値が上昇することになり、上昇したカルシウムは、血管壁に蓄積したりして、異所性石灰化という、 透析の長期合併症を起こします。
アメリカの意見では、炭酸カルシウム(炭カル錠、1錠500mg)の服用は、6錠までと勧告されています。
そこで透析患者さんは、リンの制限を余儀なくされていました。
皆さんも、血液検査をするたびに、「リンが高いですね。」、「リンの高い食品に注意してください。」と、言われたことが何度もあるに違いありません。
【炭酸ランタン】
今回、ランタンと呼ばれる希土類元素が製剤化され、炭酸ランタンとして、リン吸着剤として、2009年3月より、バイエル薬品より発売されることになり ました。
昔、日本でもアルミニウムが強力なリン吸着剤として使用されていましたが、アルミニウムは腎不全患者では蓄積性があり、脳に沈着する可能性が指摘されて 以来、アルミニウムの透析患者へのリン吸着剤としての使用は禁忌となりました。
ランタンはアルミニウムに匹敵するリン吸着力を持ちます。リンの吸着力は、ランタン1500mg=炭酸カルシウム3000mg=セベラマー6000mgに 相当すると言われています。
しかも製剤として、カルシウムを含みませんので、炭酸カルシウムの服用時に経験する、カルシウムの上昇という問題は起こりません。
また生体への吸収は極めてわずかで、胆汁よりの排泄性であり、腎不全の患者さんでも安心して服用できるとされています。
ランタン(陽イオンに乖離)は、消化管内で、リン酸の陰イ オンと強固に結合して、難溶性の物質となり、リン酸を便中に排泄します。

【炭酸ランタン、ホスレノールの服用にあたって】
1) この薬は、水無しで服用できるように工夫された、チュアブル錠という剤型です。
服用時には、充分な効果を得るために、口の中で細かく噛み砕いてください。

2) この薬は、噛み砕きやすいように、軟らかい剤型であるために、崩れやすい一面があります。包装のなかでも崩れている場合がありますが、その場合でも、1回 分の錠剤をそのまますべて服用するようにしてください。
3)腹部レントゲン撮影をした際に、この薬の影が映ること がありますが、心配しないで下さい。
4)服用は、一日3回、食事の直後に服用することように勧 められます。
5)副作用は、悪心、嘔吐、胃部不快感、便秘などがみられ ます。
食事の直後に服用することで、これらの副作用を軽減できるとされています。
6)リンの排泄を促進する薬ではないので、食事制限が不要 になるわけではありませんが、以前にもまして、リンのコントロールが容易になることと思います。

2010年3月17日水曜日

2010年3月15日月曜日

1-3) 貧血改善目標値とは

1-3) 貧血改善目標について
透析患者さんの活動性(イコール元気さ)と貧血が、相関することは以前から指摘されています。
貧血の無い方が、元気だということです。

ただし、透析の場合、それぞれの検査のために採血を行ったあとで、透析治療が行われますので、透析終了時には血液は濃縮を受けます。「過ぎたるは及ばざるが如し」といいますが、必要以上の貧血の改善は、血液の濃縮から血管事故に繋がる可能性もあります。

実際、2006年に行われた、CHOIR試験、CREATE試験などの大型臨床試験からも、目標ヘモグロビン高値群の生命予後は、好ましいものではなかった。

2008年の日本透析学会のからのガイドライン:http://www.jsdt.or.jp/jsdt/19.htmlでは、透析前ヘマトクリット30~33%程度が、最も事故の少ない貧血改善目標値であるとされています。
この貧血改善目標値にむけて、①適当なエリスロポエチン製剤の投与を行い、②適当量の鉄剤を補充することが、必要です。

1-5) 新しいエリスロポエチン

5)新しいエリスロポエチン
  2007年7月から、新しいエリスロポエチン、ダルベポエチンが上梓された。これは、従来のrHuEPO(リコンビナントヒューマンエリスロポエチン;商 品名ではエポジン、あるいはエスポー)の側鎖に、糖鎖を付加したもので、血中半減期が延長し、比活性が上昇すると言われています。半減期は静脈注射で 23.5時間と、rHuEPOの約3倍に、皮下注射では48.8時間と2.5倍に延長するとされ、投与頻度の減少が可能になりました。
すなわち従来のrHuEPOでは、週に3回の投与が必要であったものが、週に1回の投与が可能になりました。
rHuEPOとの比活性は、およそ1:200と言われており、ダルベポエチン20μgは、rHuEPO4000単位に概ね相当すると言われています。

現在は、さらにポリエチレングリコールを結合させて、半減期が7倍に、生物学的造血効果は約2倍に延長されたEPOアナログである、CERAが開発されるなど、研究開発が進んでいます。

1-2)エリスポエチンを巡って 

1-2)エリスロポエチンの発見
 腎臓は、単に尿を作るという役割以外に、実にさまざまな役割を演じている。
この血液中の赤血球の数を一定にするように平衡をとるためのホルモンである、エリスロポエチンが腎臓で産生されている事実も、生体の合目性を考えた際に、エリスロポエチンがなぜ腎臓に存在するかという基本的な質問に答えた記述を、私は未だ寡聞にして知りません。

すでに19世紀末に(1878)、酸素の少ない高地では、赤血球の数が増加することが知られていました。1906年に、Carnotらは貧血兎の血清を正常兎に静脈注射すると、正常兎の赤血球数が増加することを報告しました。この赤血球の増加は低酸素血症が直接に骨髄を刺激するのではなくて、貧血兎の血中に骨髄を刺激する物質が存在するためであると主張しました。

その後、幾多の変遷を経て、1977年熊本大学の宮家(ミヤケ)隆次らは、再生不良性貧血患者の尿2.5トンから精製をはじめ、10mgの純化したエリスロポエチンを精製することに成功した。この純化標本から、エリスロポエチンのアミノ酸配列が決定され、1985年、ついにエリスロポエチンの遺伝子クローニングに成功、今日の腎性貧血患者治療の道が開かれることになりました。

 この宮家博士の功績は誠に偉大なものですが、その後、このエリスロポエチンの特許取得をめぐっては、激しい企業競争が繰り広げられたようです。以下、岸本忠三/中嶋彰『現代免疫物語』p.187 – 190からの引用です。

『一九七〇年代半ば、大切な「宝物」を携えて日本を離れようとしている研究者がいた。熊本大学の宮家隆次。再生不良性貧血の患者の尿を携えて、彼は米国のシカゴ大学のE・ゴールドワッサーのもとへ向かおうとしていた。  宮家はどうして、こんな風変わりな行動を思い立ったのか。実は貧血患者の尿の中には、血液の赤血球を増やしてくれる分子が大量にある。そこで、宮家はこの 分野の第一人者、ゴールドワッサーのもとでこれを精製しようと考えた。この分子こそ、今、大型バイオ医薬「赤血球増多因子(エリスロポエチン=EPO)」 として知られる情報伝達分子である。 …宮家がゴールドワッサーを訪ねた甲斐はあった。彼らは一九七七年、尿の中から赤血球増多因子を抽出、精製することに成功した。 だが、この後、彼らには数奇な運命が待ち構えていた。赤血球増多因子が巨大な医薬となるとみた有力ベンチャー二社が、赤血球増多因子の生成に成功した二人に接近、ゴールドワッサーと宮家は袂を分かつことになるからだ。  ここで登場するのはバイオ分野で輝かしい成功を収めた代表的なベンチャーとして語り継がれる米アムジェン、そして同社と争った米ジェネティクス・インス ティテュートだ。ゴールドワッサーはアムジェンと共同で、宮家はジェネティクスと一緒に、赤血球増多因子の商業化をにらんだ研究を開始した。  アムジェンは遺伝子組み換えの手法で赤血球増多因子を生産するときに不可欠な中間物質の遺伝子を突き止めて配列を解読し、これを特許に申請。一方、ジェネ ティクスは天然の赤血球増多因子のたんぱく質をより正確に生成し、たんぱく質そのものを特許として出願する戦術を採用した。 両社は一九八七年から足かけ五年にわたる特許係争へと突入した。そして米国で最後に勝利を収めたのはアムジェンだった。一九九一年十月八日、米最高裁はジェネティクスの上告を棄却する形で赤血球増多因子の基本特許はアムジェンが有している、と認めるに到った。 …赤血球増多因子は、遺伝子工学の手法で作られた医薬として大きな市場を形成した代表的な医薬となった。遺伝子創薬史というものがあるとすれば、間違いなく歴史に名を刻まれるべきバイオ医薬である。』


3)エリスロポエチン産生細胞はどこにある?
 このエリスロポエチン産生細胞の腎臓での局在については長い間不明でした。しかしついに2008年、EPO発現細胞を可視化することに成功しました。(可視化には、2008年ノーベル化学賞の対象となった下村脩教授の発見したクラゲの発光物質GFPを、EPO遺伝子に導入することで可能になった。)この結果、EPO産生細胞は尿細管間質に局在する神経様細胞であることが突き止められました。神経細胞と類似の樹状突起を有すること、近位尿細管細胞と血管内皮細胞の間に位置し、尿細管に密着して存在することなどが明らかになりました。

 EPOは酸素不足状態で産生が亢進します。すなわちEPO産生細胞は低酸素を感知する機能が備わっていると考えられています。低酸素という生体にとって危機的な状況になると、細胞の恒常性を維持するために誘導される遺伝子群(低酸素応答性遺伝子群)が発現するが、EPO産 生は、このような低酸素応答性遺伝子群の影響を受けます。腎臓という臓器は生体の酸素要求度を感知する臓器だともいえるでしょう。以下、私の推論でありま すが、腎臓は糸球体毛細血管という動脈が複雑に分化した組織を持ちます。動脈血であることから、糸球体は通常の組織よりは高濃度の酸素分圧に接触していま す。酸素分圧の変化を感知しやすい臓器といえるのかもしれません。エリスロポエチン産生細胞との関係が大変興味深いところです。

4)エリスロポエチンの臓器保護作用
従 来、エリスロポエチンは赤血球前駆細胞に働き、赤血球造血を亢進させることが主要な役割と認識されていましたが、最近の研究では、EPOは脳、心臓、血管 などにも作用して、ストレス(低酸素)による細胞死を回避する細胞保護効果を持つことが分ってきました。これら造血促進作用以外EPOの役割についても現 在研究が進められています。

2-2)リンの吸着剤

2-2)リンの吸着剤
アルミゲル:リンの吸着剤としては、我が国では、長らくアルミゲルが利用されてきましたが、アルミゲルが、透析患者では蓄積性があり、脳等に蓄積する危険から、現在はアルミゲルの使用は禁忌となりました。
炭酸カルシウム:次いで、長い間利用され、現在もリン吸着剤の中心であるのは、炭酸カルシウムです。この薬は、1錠中に約40%のカルシウムを含んでいます。DOQIのガイドラインでは、カルシウムとして、1500mgを越えないようにという勧告がありますので、およそ炭酸カルシウムとしては3000mg程度が上限と考えられます。
さらに炭酸カルシウムの注意点としては、服用時の胃内pH(酸度)により、リンの吸着効率が変わるということです。胃内のpHが充分に低いほど、リンの吸着効率は良くなります。ですから食後、時間をあけて、この薬を服用するのではなく、食直後に服用、もしくは食事中に服用することが勧められています。
また、胃潰瘍の治療の目的で、胃酸分泌抑制剤(H2ブロッカーや、プロトンポンプ阻害剤)などを併用している場合には、リンの吸着を悪くしている可能性もあり、見直しが必要です。

2-1) カルシウムとリン まえおき

2-1)カルシウムとリン
透析治療にとって、カルシウムとリンを巡る問題は最も大切な問題のひとつです。
いくつかの前提があります。
腎不全患者では、リンの排泄低下があり、血中にはリン貯留傾向となります。また透析では、リンの除去には限界があり、腎不全患者特に透析患者では、リンは貯留します。

腎不全患者では、カルシウムの低下が起こります。これは、腎臓にはビタミンDを活性化することで、カルシウムを血中に保持する重要な役割があります。腎不全では、このビタミンDの活性化に障害があり、血中カルシウムは低下します。


血中カルシウムを維持するために、副甲状腺機能が亢進し、分泌された副甲状腺ホルモンが骨に働き、骨からカルシウムを溶出することで、血清カルシウムを維持しようという仕組みが働きます。
このように、高リン、低カルシウムが、透析者一般の傾向として見られます。そこで、まづ、リン値を是正することが、勧められています。このリン、カルシウム、PTHの順に是正を行うことが必要だとされています。
まず、リンの管理を第一に考えなければなりません。

1-1)腎臓と貧血 はじめに 貧血の分類

1-1)腎臓と貧血
まずは、貧血の有無を診ています。
貧血は、ヘモグロビンという項目で調べます。しかし、透析の場合、慣用的にヘマトクリットの項目が長い間評価の対象にされていましたので、現在も、ヘマトクリットという項目を参考にする場合も多いです。
ヘマトクリットとは、血液(全血)をヘマトクリット管という細い毛細管にいれて遠心した場合に、血球の占める割合を示しています。
別の表現をすれば、赤血球が血液全体にしめる体積を表しているといえます。一方、ヘモグロビンの単位である、Hb/dlとは、デシリットル(dl)という単位体積あたりのヘモグロビンという色素の量を表しています。
ヘモグロビンが同じであっても、ひとつひとつの赤血球の大きさが小さければ、ヘマトクリットは低値になります。赤血球が小さくなる貧血の代表が鉄欠乏性貧血であり、透析患者さんにもよく見られます。
またひとつひとつの赤血球が大きくなるタイプの貧血では、ヘモグロビンに比して、ヘマトクリットは高値をとることになります。
このタイプの大球性貧血は、代表的にはビタミンB12 や葉酸の欠乏によるものが知られていますが、腎不全でも大球性の貧血になりえます。

rHuEPO(遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン)製剤が、発売されたのは、1986年7月であるが、発売前の透析患者のヘマトクリット(Ht)は、男性20.6%、女性19.0%であったという。しかし、rHuEPO製剤が流通した、2007年末には、平均ヘモグロビン(Hb)濃度は、10.27+/-1.32と、およそ5割も増加したと指摘されている。(臨床透析 25(11)、1579-1586、2009.)

2-3)シナカルセト

2-3)
【新薬】カルシウム受容体作働薬 シナカルセト塩酸塩
レグパラ:透析患者の副甲状腺機能亢進症を改善
2007年10月19日、二次性副甲状腺機能亢進症治療薬のシナカルセト塩酸塩(商品名:レグパラ錠25mg、同75mg)が製造承認を取得した。承認された適応は「維持透析下における二次性副甲状腺機能亢進症」である。
二次性副甲状腺機能亢進症とは、慢性腎不全の進行に伴って発症する、透析患者にとって主要な合併症の一つであり、副甲状腺から副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に産生・分泌された状態をいう。特に維持透析下では、腎機能低下によるリン貯留やビタミンD活性化障害のために、二次性副甲状腺機能亢進症が頻発することが知られている。PTHには骨からのカルシウム流出(骨吸収)を促進する作用があるため、これが過剰産生・分泌されることで、骨痛や関節痛を伴う「線維性骨炎」や、動脈硬化などの心血管系障害の原因にもなる「異所性石灰化」(骨以外に石灰化が起こる病態)を引き起こす。

従来から、二次性副甲状腺機能亢進症の治療には、不足する活性型ビタミンD3を補う目的で、活性型ビタミンD3製剤であるカルシトリオール(商品名:ロカルトロールほか)などが使用されている。しかし、活性型ビタミンD3製剤は、PTH抑制効果は確実ではあるものの、同時に小腸からのカルシウム吸収能も上昇させるため、投与量を増やすと高カルシウム血症を引き起こす危険があり、PTHを抑制するために十分な量を投与できない場合があった。

これに対し、今回承認されたシナカルセトは、副甲状腺細胞表面のカルシウム受容体に直接作用することで、血清カルシウム値を上昇させずにPTHの分泌を抑制するとともに、血清リン値をも低下させる薬剤である。その作業機序から、カルシウム受容体作動薬(calcimimetics)とも呼ばれている。海外では、米国を始め、EU、オーストラリアなど30カ国以上で承認されている。日本では、2000年から血液透析患者を対象とした臨床試験が行われており、ようやく今回の承認となった。

今後、シナカルセトは、透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症の治療に多く使用されていくものと考えられるが、海外の試験では、長期使用により悪心や嘔吐など、消化器関連の副作用症状が出現したことが報告されている(ただし、投与を中断するほどのものではない)。こうしたことから、シナカルセトを使用する際は、当初は少量から投与を開始し、患者の状態や検査データなどを確認しながら徐々に増量していくことが必要と考えられる。
(北村 正樹=慈恵医大病院薬剤部)
日経メデイカルオンラインより、引用   (2008.01.29)


 ★シナカルセトの説明 愛媛県臨床工学技師会誌 19(1):36~、2008
 http://cid-aa762165ad9f05d2.skydrive.live.com/self.aspx/.Public/%e3%82%b7%e3%83%8a%e3%82%ab%e3%83%ab%e3%82%bb%e3%83%88.pdf